もしあなたがトップアスリート、もしくはフィジカルトレーニングを指導する立場にあり、運動連鎖をトレーニングする場合、とても重要なことがあります。それは、Joint by Joint Approachに基づき、可動性と安定性のバランスに注意しなければなりません。その重要性について、マニー・バッキャオのトレーニングムービーから探りましょう。トップアスリートは常に身体を理解してトレーニングを行っているのです。
前回、運動連鎖を高める方法をコラムで書きました。今回は、具体的に僕がどのような理論でアスリートへ指導しているかを少し分かりやすく、なるべく簡単な言葉で書いてみたいと思います。難しい内容ではありますが、運動連鎖によるパフォーマンス向上を実現する上でとても大切な考え方ですので、実際にトレーニングプログラムを作成する上で是非とも理解したい重要なポイントです。
なお、体幹トレーニングを行う理由としては、パフォーマンス向上だけでなく傷害予防も含まれるのですが、今回はパフォーマンス向上にフォーカスしたいと思います。
パワー以上に大切なパフォーマンス向上のための要素がある
アスリートが競技でパフォーマンス向上を心がける場合に、パワーで相手を凌ぐと言う考え方も一理はあります。「パワーで相手を封じ込める」、「パワーみなぎるショット」などと言う表現をスポーツ解説者も多用します。しかし、各スポーツの場面を注意深く見ていくと、そのパワーがパフォーマンスを邪魔する場面をよく見かけます。パワーを捨てるべき身体動作のタイミングがあるはずなのです。
これを分かり易く説明するために、例として幾つかのスポーツ動作の共通特性を述べたいと思います。
例えば、サッカー、バスケットボール、ボクシング、サーフィンなどは、四肢を左右共に連動させて、身体の切返しがあるという共通の特性動作があります。
これらのスポーツのパフォーマンスが高い選手はパワーで打ち抜いたり、振り回すのではなく、緩める部位と固める部位を器用に使い分けて、体幹を軸とした身体機能を効率的に動作するスキルを持っています。そして、そのための体幹トレーニングをしています。
体幹トレーニング内容の奥に、何を重視しているのかを見極めよう
今回の例として、良いムービーをyoutubeで見つけましたのでご覧ください。
多くのスポーツを一度に紹介するのは不可能なので、一つだけ見てみましょう!!僕の大好きなボクシングの英雄、マニー・パッキャオ選手の腹筋トレーニングのムービーです。
何となく数種類の腹筋トレーニングを連続して行っているように見えますが、ボクシングという競技に非常に特化した動きも隠れています。
- 体幹の中心部である腹直筋、腹横筋、腹斜筋、腸腰筋を満遍なくワークアウトしているのは簡単に分かりますね。
- さらに腰椎をしっかりと安定させた状態で、胸郭の可動性・肩関節の可動性・股関節の可動性を意識してワークアウトしていますね。
上記2.に関してもう少し説明しようと思うのですが、何か気づかれた方がいらっしゃったのではないでしょうか?
そうです、前回のコラムに記載したJoint by Joint Approachに適応していますね。つまり、マニー・パッキャオ選手は明確に身体機能を知っていながら、この腹筋トレーニングを行っているはずです。12R戦わないとならない筋持久力の要素も取り入れながら、ボクシングという競技特性に合わせた体幹トレーニングを行っているのです。
効率的な動きが軸を作り出し、パフォーマンスを向上させる!
最後に、詳細は省略しますが、上記2.をJoint by Joint Approachに基づいて見てみましょう。身体の部位を頭部に近い方順に、もしくは遠位(体幹から離れる)順に並べ替えます。
- 肩関節−可動性 >(肩甲骨の安定性)>
- 胸郭−可動性 >
- 腰椎−安定性 >
- 股関節−可動性
となります。
もし、腰椎の安定性を欠如し、不安定になったとしたら、どうなるでしょうか?
胸郭から股関節まですべてが可動性で揃うことで、(崩れそうな積み木をイメージしましょう)体幹という身体の軸が欠如し、パフォーマンスを落としてしまします。上記の可動性と安定性の部位が交互に構成されることで、体幹という身体の軸を形成し、効率の良い運動連鎖からパフォーマンスを生み出すのです。
どうでしたか?アスリートが行う体幹トレーニングには必ず意味があるのです。だから闇雲に体幹トレーニングしてもパフォーマンスには繋がらないと何度か述べていますが、上記の理解が大切なのです。もしあなたがトレーナーだったとしたら、この点についてしっかりと理解し、妥当性をもってワークアウトの計画を策定しなければなりません。
あなたがアスリートで指導を受けている立場だとしたら、トレーナーを見極める上で上記のような知識を獲得しましょう。
各業界の先頭を走るアスリート達は、競技で結果を出す裏でこうした根拠を持ったフィジカルトレーニングを日常で行っています。運動連鎖に着眼し、また体幹トレーニングを行っていることを知りましょう。